[鼎談]
(写真左)フォーセンス 代表取締役 飯嶌 政治氏
(写真右)新建新聞社 代表取締役 三浦 祐成
フォーセンスが工務店に提供している「デザイン住宅」のノウハウの本質は「標準化」にある。設立から12年を迎えたフォーセンスがやってきたこと、そして今後「普通にやっていれば儲からない時代」に突入する前に工務店がやるべきことについて、「標準化」をキーワードにフォーセンス代表取締役・飯嶌政治氏と新建新聞社代表取締役・三浦祐成が議論した。
第1回 フォーセンスの2つの先進性
コラボレーションの実践とデザイン住宅の標準化
いち早く「コラボ」を実践
飯嶌:フォーセンスは今年で12期目を迎えました。おかげさまで会員も260社になりましたが、どんなサービスを提供しているのかきちんと伝わっていないのではないかという不安があります。やってきたことは間違っていないと思っていますが。
三浦:ずっと住宅ネットワークをウォッチしていますが、フォーセンスの特徴は大きく2点にあると思っています。1つは「コラボレーション」を早くから実践していたこと。フォーセンスはチトセホーム、さつまホーム、坂井建設という3社の工務店がコラボして生まれたネットワークです。また、コラボの成功にはプロデューサーが欠かせませんが、その3社をまとめた飯嶌社長というプロデューサーが存在したことも大きかったと思います。
飯嶌:設立当時は「工務店3社がノウハウを提供するなんて、うまくいくわけがない」と言われました。でも個性的な3社が自社のノウハウを提供していることが会員さんの満足度につながっていると感じます。
三浦:いま住宅ネットワークは過渡期に来ていると感じます。ノウハウをブラッシュアップし続けられるかが勢いや満足度の境界線になっている。フォーセンスの強みは、3社が成長を続けている現業の工務店で常にノウハウが新鮮なうえ、3社3様の進化のプロセスを会員工務店と共有できる点にあります。しかも、3社が経営の本質は共有しながらも、手法はそれぞれ異なるため、会員工務店が自社の規模やスタイルに応じてベンチマーク先を選べるのもメリットです。
標準化提案の元祖と言っていい
三浦:もう1点は、工務店の家づくりに「標準化」という視点を持ち込んだことです。新建ハウジングでも建築家の伊礼智さんの連載などを通して標準化=「型」の重要性・必要性をうたってきました。フォーセンスは標準化に10年以上も前に着目、設計、納まり、コストすべてに型をつくり、型どおりにつくればシンプルで美しくコストパフォーマンスの高い家をつくれるようにした。標準化提案の元祖と言っていいかもしれません。
建物のバランス、ディテール、仕上げなど標準化の
ノウハウが凝縮された「ジュピターキューブ」
飯嶌:工務店の家は垢抜けないとか、コストとデザインと性能のバランスが悪いと言われてきましたが、それは自己流でやってきことに加え、毎回施主の要望に合わせて違う家をつくってきたことが大きいと思っています。これだと品質も安定しない。フォーセンスが提供している標準化のノウハウは、いわば誰でもシンプルな美しい家をリーズナブルにつくれる基本レシピ。自己流の家づくりを1回リセットして基本を一度学びましょうというのが根幹にある考えです。
標準化=基本レシピの開発者であるチトセホームの西山哲郎社長は、20年近くも前から、かっこいい家を、既製の建材を使って、リーズナブルに、安定した品質でつくれるかを真剣に取り組んでいました。私は前職で何百社という工務店の家を見てきましたが、チトセホームの家は際立って美しかったし、整っていた。そのノウハウを体系立ててまとめて全国の工務店に広めたい。そうしたら日本の住宅の質はすごく上がると思ったんです。
利益を確保しないと生き残れない
三浦:標準化によって設計・施工の習熟度が上がり、スタイルが明確になって、それがブランドとして認知されるようになる。基本があるからこそアレンジを加えることもできます。フォーセンスのレシピを学ぶことで救われた工務店も多いはずです。
飯嶌:例えば私たちのレシピには建築コストを一から検証する「コスト管理」も含んでいて、基本レシピ通りにつくればコストダウンも可能です。ですが、ここを我流でやってしまうと成果はあがりません。私たちの会員でも、成功しているのは、まず基本を忠実に実践した工務店さんですね。
三浦:ハウスメーカーの営業利益を調べていたら、積水ハウスは8%弱で高利益でしたが、実質赤字だろうなというハウスメーカーも結構ありました。もちろん工務店も同様です。これから供給過剰で儲からない市場になるなか、標準化によってクオリティと利益を両立することは大きな課題だと思っています。その上でどう差異化を図るか。
難しくなる差異化
飯嶌:差異化について言えば、今業界が進めている性能だけでは難しいと見ています。特に2500〜3000万円の工務店の方向性は難しく、ゼロエネしてコストアップしても競争力を持ち続けられるかという課題があるように思います。
三浦:確かに価格を上げるか下げるか迷っている工務店さんも多い。でも、結論を出す時機にきています。重要なのは、どっちに行くにしてもきちんと利益を出すこと。8割の一般層の住宅予算は今後さらに低下するとみています。一般層を対象にするなら、さらにコストパフォーマンスを高めたいところです。
飯嶌:フォーセンスには売価1600万円想定の『ライフボックス』という低炭素仕様の商品=基本レシピがあります。これに太陽電池を載せてサッシを変えればコストパフォーマンスの高いZEH商品になる。基本レシピがあると、自社のターゲットのニーズに合わせてアレンジするだけで済むのです。
プロデューサーの時代
三浦:先ほどプロデューサーの話をしましたが、いま再びプロデューサーの時代がきてます。何かと何かを結びつけて新しい価値を構築する、そんな役割を担うのが今求められているプロデューサーです。もうひとつ、現在のプロデューサーに求められているのが、シンプルにすること。難しそう、面倒くさそう、できないと思われて敬遠されてきたことを、シンプルにして、誰でもできるようにする。うちでもできそうだと思わせる。飯嶌社長がフォーセンスがやってきたことと重なります。
飯嶌:プロデューサーですか。言われてみればそうかもしれません(笑)。設計・施工・納まり・コストを標準化し、それをシンプルな使いやすいマニュアルにまとめたことで、うちでもできると思っていただけ、実践も進みました。
三浦:今後は住宅ネットワークも差異化の時代。今後は、これまで以上に飯嶌社長のプロデュース能力が必要とされるはずです。
飯嶌:まずはフォーセンスの基本のレシピをもっと多くの工務店さんに使っていただきたいと思っています。基本レシピとしてはよくできているという自負がありますし、実績と積み重ねてきた経験もあります。そのうえで12期目は新しいことにも挑戦したい。住宅業界に新しい風をおこすようなプロデュースにチャレンジしたいと思っています。今後の展開にもご期待下さい。